わたしたちの暮らす瀬戸内と、多島美

瀬戸内海は、日本の本州西部・四国・九州に囲まれた日本最大の内海。

古来より、日本の交通の大動脈となっており、港の中や町の中に歴史的な港湾施設やそれを中心とした歴史的環境が残り、その豊かな歴史が脈々と息づいている。

多島美とは、内海に小さな島々が連なることであらわれる、景観の美しさを称えた言葉。

大小合わせて約 720 もの島々が点在し、豊かな生態系を持つことで知られる。

それぞれの島にそれぞれ文化があり、人の営みの歴史が景観にあらわれる。
安定した気候に恵まれ、穏やかな海にそれら島々が浮かぶ。

そのひとつひとつ個性あるものが一体となるからこそ、詩情豊かな「多島美」が織りなされる。

この景観は医師であり博物学者であったシーボルトをはじめ、数多くの欧米人から高く評価された。

ヨーロッパには古代より綿々と脈打つユートピア観があり
東洋はもともと欧米人の楽園幻影の地であった。

内海を航行して次から次へと現れては消える大小無数の島々や入り組んだ海岸
海辺ののどかな村や町に彼らは「楽園」を見いだしたのである。

シルクロードの命名者でもあるドイツ人地理学者フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェンは、
「これ以上のものは世界の何処にもないであろう。
将来この地方は、世界で最も魅力のある場所の一つとして高い評価を勝ち得、
沢山の人々を引き寄せることであろう。(中略)
かくも長い間保たれて来たこの状態が今後も長く続かん事を私は祈る。」と
自著*で世界中に紹介した。

*出典 海老原正雄訳「支那旅行日記」上巻 慶応書房刊