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「死ぬまで挑戦」…百姓は国産無農薬ハーブの夢を見るのか?
国産/無農薬/ハーブ/オーガニック/グローバリズム
東岡山駅から車で5分、息を飲むほどに美しい山々の丘陵と青空のコントラストが目の前に広がる。その美しい景色の中に、「岡山夢百姓」はあった。
岡山夢百姓さんの入り口岡山夢百姓は国産無農薬ハーブに特化した農園だ。
農園のオーナーである石村さんと奥さん、そして彼らの想いに呼応して集まった人々で現在運営されている。
1兆ヘクタールに至る広大な田畑、そしてそこに植えられたハーブたちを販売しており、現在かのオーガニック石鹸ブランドや地場の企業などを中心に取引を行っている。
広大な農園には、ローズマリー、ミント、レモンバーベナ、コモンマロウ、カモミール…色とりどりのハーブたちが咲き誇っている。
土、肥料、育て方にこだわったオーガニックのカモミール
最初は公務員として岡山県の灌漑事業や圃場整備に携わっていたという石村さん。
退職後国産無農薬ハーブ農園をやることになったきっかけは、百貨店に並ぶハーブ商品を見た奥さんの「これならできそう!」という一言。
そんな夢いっぱいの始まりだったが、始めてみると国産無農薬ハーブ栽培の難しさを思い知ることとなる。
ハーブは全然儲からない。と石村さんは苦笑する。
「国産で無農薬のハーブなんてね、今ないんですよ。大変だし儲からないから」
かつては観光農園としてオープンさせた岡山夢百姓だが、少し中心部から離れた立地のためそれでは生計を立てられなくなり、現在のハーブティーとハーブソルト用の生産を中心に行う形態へと変わった。
「ハーブ農家なんて、年金突っ込むとことしては辞めた方がいいなあって思いますよ(笑)中々、ハーブを作っても儲かりません。皆作ったらすぐ儲かるように思えるんよね、だけどそれにかかる費用が非常に高いもんでね。」
その後何度も何度も修羅場を経験した。と語る石村さん。しかしその横で奥さんは「いっつもこんな生活!」と向日葵のようにぱっと明るく笑う。
いつも仲が良さそうな石村さんご夫婦
挑戦は終わらないー生産者としての最大の努力
無農薬で栽培することの難しさと、割に合わなさを石村さんは語る。
「結局ね、国産で無農薬にしても結局スーパーで買い物するでしょ?その時にキャベツならキャベツで、綺麗なキャベツがありますね。これは農薬漬けなんですよね。毎週のように農薬掛けて。方や無農薬野菜として売られてるキャベツにはね、虫が食ってます。値段としては、1割も違わんでしょう。結局手間暇かけて、採算が少ない無農薬野菜を作っていても経営的に合わないんですよ。でお客さんは農薬かかっとったらいやだといいながら、綺麗な野菜を買っていくわけです。」
昨今オーガニックや農薬の危険性などが見直されるようになり、「無農薬」「オーガニック」という言葉はSDGs推進と共にある種富裕層に向けたマーケティングとして機能するようになった。
しかし一方で、虫食いの野菜は汚いといいながらオーガニックや無農薬を欲するその矛盾に、消費者たちは気が付いているのだろうか。
虫食いの野菜であろうとも別に健康に害はない。
しかし私たちは食品に美しさを求め、その希求は世界農業の農薬使用を促す。
皮肉な現状だ。
また、国産無農薬ハーブを生産するにあたり、夢百姓として一番言われることがあるという。
それは値段が高すぎるということだ。
安い労働力と効率化によるコスト削減を行っている海外産のハーブは夢百姓のハーブの3分の1以下の値段。
そのため卸先などからはもっと安くして欲しいと毎回いわれる。
しかし、いわゆる安い労働力に頼らず、かつ国産無農薬というクリーンネスを達成しようとするとどうしてもコストは高くなる。
そういった付加価値があっても買いたたかれる現状に対し、石村さんはぼやく。
「うちは商品が高い、高いといわれます。もう高いのは当たり前なんですよ、日本の労働賃金で考えたらね、海外の農薬使って安い労働賃金で作って輸入したものとは全然ちがうんだって言っても中々お相手さんが理解してくれない。手間暇かけてますから、高いのは当たり前なんですよ。けどそれでもおたくの商品は高いといわれる、でもそのくらいしないとうちがペイできないんですよね。」
現在世界中で起きているグローバル化された市場経済による弊害が夢百姓にも降りかかっている。
「悪貨は良貨を駆逐する」とでも言えるのか、安い生産力を搾取し、農薬などで効率化されたハーブが流通することにより、夢百姓のような誠実な生産を行う農家が割を食う。
なんとも歪な日本の現状を私たちは窺い知ることができる。
農園と共に過ごした年月を感じさせる節くれた手指でカモミールを収穫しながら、石村さんは静かに呟く。
「生産者として最大の努力をして、安心安全なものを作ろうかというのが一つの私の考えですから。自己満足かもしれないけど、あくまで自分のポリシーは大事にしたい。それを商品化に生かします。それが私の理想としているところなんです。…死ぬまで挑戦ですよ。」
飽くなき国産無農薬ハーブへの探求心、岡山夢百姓の石村さんの挑戦は死ぬまで続く。
それが報われるかどうかは、私たち消費者の意識にかかっているのではないか。
今一度私たちは自分たちの暮らしに目を向けなければならない。
Writer
tatoubi art project / 山本 ちあき