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障がい者のウェルビーイング ー社会とつなげる福祉ー

障がい者/ウェルビーイング/福祉

倉敷市水島の商店街に、ある障がい者就労支援施設がある。

 

どこか懐かしい昔ながらのアーケードを歩いていくと、「irodori」と描かれた看板を掲げた施設が見えてくる。ここは、障がい者の方々の社会復帰や就労支援を行っているNPO法人「彩」である。



同じ社会に生きているはずなのに、障がい者の人たちの生活はどこか社会と分断されている。ダイバーシティやインクルージョンという言葉が唱えられるようになって久しいが、まだまだそれが実現されているとは言い難い社会状況の中で、多様性を認め、一人一人の生活をよりよくするための方法は何なのか。

今回は所長である佐藤さんに、活動内容や現代の障がい者の人たちを取り巻く状況をお伺いしてきた。

 

地域における障がい者支援

佐藤さんは現代の多様化する生活と社会に合わせて、福祉も支援の仕方を変えていかなければならない。と話す。

近年、急速的な社会の変化に伴って価値観も社会課題も多様化し、福祉がそれに対応していかなければいけないと強く感じています。 多様化した障がい者の福祉を、今ある制度という枠に当てはめるだけでは十分ではない。

 

ここ数十年で社会は急激に変化している。その中で障がい者の人たちの生活や暮らしというものも大きく変わった。 そのため、従来通りの対応では零れ落ちてしまうケースも多々ある。一人一人の課題が多様化した中で、枠内のみで機械的に対応するだけでは、不十分なのである。

福祉を行う側も、きちんと一人一人と向き合っていかなくてはならない。私たちもこれからは向き合うための熱量を持って取り組んでいくべきだと考えています。

 

と佐藤さんは言う。個人と社会の背景を理解し、複雑化した課題に緻密に対応していくために新たな方法を編み出す必要性がある。



私たちの「ウェルビーイング」

佐藤さんは、国が責任を持つ最低限のセイフティネットとしての福祉を行っている傍ら、障がい者たちの最低限度の生活以上の支援も必要だと考えている。衣食住が足り、生活を脅かされない暮らしの権利は障がい者を含めた国民一人一人に担保されている(はず)だが、それだけでは人間は健やかに暮らせない。 有名なものであるが、マズローの欲求五段階説では生理的欲求と安全欲求という最低限の欲求の上に、愛と集団所属欲求、自尊心、自己実現、自己超越欲求がそれぞれ置かれている。最近唱えられているウェルビーイングにおいて、最低限の欲求以外にもこういったものが満たされて成り立つことが言われている。 佐藤さんは、障がい者の人々の上記欲求を満たすことも支援していく必要性を感じているという。

例えば、支援者たちが施設から無事社会に出た後、最低限の生活以外にも色々なイベントが起きうる。それは恋人が出来て同棲を始めることだったり、行政の手続きを行ったりと様々なものがあります。 しかし社会に出た後、そういった手続きに躓いてしまう人々も多い。そういった人たちが生活のあれこれを相談できる場が社会に必要だと思っています。障がい者の人たちも社会復帰をした後、結局生活範囲が広がりにくく、もう一度福祉に戻ることも多いです。そういった事情からも、最低限の生活を保証するだけでなく、彼ら一人一人の人生や生活の充足するための営みをサポートする場の必要性を強く感じていますね。

 

やはり障がい者の方々が社会で生きていくためには、社会の理解とサポートが不可欠である。その中で行政が今担っているだけの支援ではなく、私たちを含めた社会として彼らを知り、そして彼らの人生を尊重する意志と姿勢が不可欠である。


知ること、見ること

分断の理由は、多分お互いに「知らない」ことが理由なのではないか。と佐藤さんは話す。身近に居ない限り、障がい者の暮らしは私たちから見えない。それ見えなさが「分断が理由」でもあり、「分断の理由」でもある。

社会の方も障がい者の生活を知らないのはやはり関わりが無いからですし、ここは福祉に携わる側が精力的に社会へと発信、働きかけをしていくべきなのかと思っています。ただ、これまででノウハウなどはあまりなく、福祉側もそういった部分に長けていないという事実があります。 これから見せ方などを工夫して、社会に知ってもらうことも必要かと思っています。知らないと皆さん構えてしまうので、まずは知ってもらうことから始めることが大事なのではないかと思います。

 

佐藤さん自身も色々なイベントを開催している。倉敷KAGでは、障がい者の人同士の婚活パーティを行ったり、最近でも障がい者の人が安心してお酒を飲みながら聞けるジャズライブを開いている。それは社会を分断ではなく、繋げるために、当事者と呼ばれる障がい者の人たちが普通にバーにいる景色を作る試みであった。倉敷の街中で繋がる景色を作ることで、社会と繋がることで、分断を少しづつ埋めることの実践である。

最初に言った通り、障がいも人それぞれです。なので、全部を理解することはやはり難しいし、理解というよりも知ってみることが大事だと感じます。最初から全部受け入れろっていうのは難しいですし、徐々に知っていって、関わっていくのがいいのかなと思います。最初から全部理解しなきゃいけないと思うと、凄くハードルが高くて厳しいなって感じられると思うのですが、グラデーションで理解するといいますか、無理のない範囲で互いに楽に知っていけばいいと思うんです。そうやって人が交われる方法を編み出したいですね。

 


社会と障がい者の分断一つ一つを丁寧に、そして着実に埋めていくこと。彩と佐藤さんはその行動を倉敷から始めている。

Writer
tatoubi art project / 山本 ちあき