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身体にも、地球にもいい商品を ー伊那食品工業が積み重ねてきたもの

かんてんぱぱ/サステイナブル/寒天シート

※記事内画像は全て伊那食品提供

伊那食品工業は寒天の会社である。またその新たな使用方法として「寒天フィルム」を開発し、プラスティックフリーの包装を成功させたSDGs最先端の企業である。

今回はそんな伊那食品工業に、寒天を巡る現状や人を大切にする会社の背景などをお伺いしてきた。


海藻をめぐる現状

寒天は、二つの海藻から出来ている。テングサ、とオゴノリという海藻である。

テングサ

オゴノリ

オゴノリはチリ、インドネシアが主な産地で養殖もされている、テングサは養殖技術が確立されておらず、自然のものを毎年採っている。

テングサは2~3年草を定期的に収穫するのが望ましい。けっして乱獲をして漁場を荒らしてはならない。夏から秋にかけて到来する台風も、漁場を程よくかき回し掃除してくれる効果がある。(磯洗い)

昨今は爆弾台風、地球温暖化の影響による海水温の上昇、漁師の高齢化など、海藻漁も難しい局面に入っている。現地の漁師や住人といった様々なステークホルダーによって海藻漁は成り立っている。

しかし、自然由来の原料は安定して取れる保証はない。そのため伊那食品工業では原料である海藻の備蓄を本社近郊の倉庫に分散させて行っている。全てはユーザーに安定した寒天を供給するためのリスクヘッジである。

 

人を一番に

寒天の食文化は約400年の歴史がある。冬の寒さを利用してトコロテンを乾物にした食品である。
京都発祥の糸寒天は、その後長野県に伝わり角寒天の生産に発展した。
伊那食品工業は1958年設立。角寒天は用途も限られるため、年間を通じて生産ができる粉末寒天の製造を開始した。

創業当初は粉末寒天を製造する企業が何社も存在しており、他社と同じ寒天を製造していては市場が広がらないと考えた伊那食品工業は新しい寒天の開発に力を入れた。現在も全社員の1割が研究員である。

私たちは寒天と聞くと透明でつるんとしたトコロテンを漠然と頭に浮かべるが、伊那食品工業は約100種類の寒天を製造している。
食品だけでなく、医薬品、工業製品など幅広い分野で寒天は利用されている。

更には寒天と他の素材を混ぜ合わせ、水分を固めたり、トロミを付けたりといった天然の凝固剤も伊那食品工業は多数製造している。

かつての寒天工場は、今でいう3K「きつい、汚い、危険」という劣悪な環境でもあった。
ある労災をきっかけに思い切って高額な機械を導入した。設備、資金なども満足に無い時代ではあったが、
社員を危険にさらす環境では企業の先はないとのトップの思いからである。

それから社員もトップの思いにこたえ、自ら改善活動にも取り組んだ。「長靴よさよなら運動」を合言葉に、
水浸しの職場が、今では運動靴で作業を行えるようになった。

また伊那食品工業の特徴として、トップと社員の距離がとても近く、一体型の経営を行っているところである。

そのため労働組合も無く、日頃のコミュニケーションの中でトップにも直接意見が言えるそうだ。
伊那食品工業では毎年社員旅行を行っている。2年に一回は会社が一部負担をして海外にも出かける。
(現在はコロナにより中断)
年間を通じて行われる様々な社内行事から、部門を超えた連携が生まれ、社員は皆仲がいいそうだ。

「会社の社員は運命共同体である」との考えから、仕事以外でも困っている社員がいれば皆で助け合う。一連の繋がりを「いなしょくファミリー」と呼んでいる。



また、伊那食品工業の社長インタビュー記事では、社員と地域を大切にすることへの想いと「年輪経営」の理念のもと、社員の幸せを第一に会社づくりを行っていることが語られていた。

年輪経営の意味を伊那食品工業に尋ねてみると、「木の年輪の様に毎年着実に。安定して積み重ねる。

波のある経営ではなく、毎年少しずつ。

去年より良かったねといえる経営を。」ということだった。

すぐに利益を上げようとするのではなく、細く長く、そうやって積み重ねていく経営方法である。

 

地球と人の健康一番!

伊那食品工業は、人件費を経費ではないと語る。

ちょっと汚い話ですが、うちのトップは、利益はうんちだ。っていうのです(笑)
人間は食事をはじめ規則正しい生活をすれば、毎朝きちんとうんちが出ます…つまり経営もきちんと良い製品を作り、適正な利益を頂く、人を大事にしてできる範囲で地元や社会貢献を行う、あらゆる面でバランスの取れた経営を心掛ければ、自然に適正な結果が伴うと。

逆に無理をしたら身体も環境も壊しますし。
本来あるべき姿を考えれば皆が幸せになれるということですね。四方よしというか、会社の永続を常に考え経営しています。

 



伊那食品工業は、年輪のように着実に、そして環境に配慮する事も考えている。

その結果として、新たに寒天を使用して自然に分解されるフィルムの開発、また地元長野県伊那市にかんてんぱぱガーデンという体験型の自然を生かした公園工場、さらには寒天を製造する上で発生する海藻残渣は土壌改良剤として再利用している。グループ会社の農業法人ぱぱな農園での活用や近隣の農家さんへも販売をするなど、完全リサイクル型の生産体制を整えている。

売り上げや利益追求ではなく、人と環境とその巡りを大切にした経営が、これからの世界のスタンダードとなることが必要だ。

Writer
tatoubi art project / 山本 ちあき